今回はMark A. Fegerらの論文(2016)をご紹介します。
はじめに
足関節捻挫は最も一般的な筋骨格系の損傷であり、スポーツ関連の外傷の約15%を占めます。
慢性足関節不安定症(CAI)は、初回の足関節捻挫後、最大40%の患者が発症すると言われており、特徴としては・繰り返される捻挫・足関節の「ぐらつき」・持続的な症状などが挙げられます。
CAIは長期的には、変形性関節症のリスク増加や、身体活動の減少による生活の質の低下、関節可動域の減少や神経筋機能の異常をもたらす可能性があります。
この研究では、CAIを有する若年成人と健常者の内在筋・外在筋の筋肉量と4方向の足関節筋力を比較しています。
方法
CAI患者5名(23.0±4歳)と健常対象者5名(23.8±4.5歳)
・手持ち式ダイナモメーターによる4方向の足関節筋力測定(背屈/底屈/内反/外反)
・MRIによる内在筋・外在筋の筋肉量測定
結果
CAI群で有意な減少がみられたもの
●外在筋の筋肉量
・総足底筋量 ・浅後方コンパートメント ・ヒラメ筋
●内在筋の筋肉量
・母趾内転筋斜頭 ・短母趾屈筋
CAI群で有意な低下がみられたもの
●足関節筋力
・背屈筋力 ・外反筋力 ・総合的な4方向筋力
正常データベースとの比較(Z‐スコア)では、CAI群で筋萎縮が確認された
●軽度萎縮
・長趾屈筋 ・ヒラメ筋
●中等度萎縮
・内側腓腹筋 ・外側腓腹筋 ・趾伸筋群 ・膝窩筋
特筆すべき点として、長母趾屈筋では肥大が確認された
図はZ‐スコアを表す
(負の値は萎縮 正の値は肥大 −1<Z<1(正常範囲))
考察
・CAI患者では外在筋・内在筋の筋量減少と足関節4方向の筋力低下が確認された
・外在筋の筋量の差はみられなかったものの、外反筋力は最も大きな低下を示したことから、筋力低下は筋量減少ではなく神経筋メカニズムに起因する可能性を示唆
・Z−スコア分析では被検者間に大きな変動がみられ、個々の患者に合わせた個別化されたリハビリテーションが必要
・CAI患者の筋量減少は、将来の関節症発症リスクと関連している可能性
長母趾屈筋の肥大について
歩行メカニクスの観点より、長母趾屈筋は第1列の底屈筋として機能し、歩行中の内側縦アーチに重要な役割を果たします
CAI患者は外側への圧力偏位を示す特徴的な歩行パターンを示すため、第1列の硬さと外側への足底圧の増加には関連性があるため、代償メカニズムとして回外位の足部と内側縦アーチを安定化させるために、長母趾屈筋への負担が増加し、持続的な負荷増加が時間とともに筋肥大をもたらす可能性が論文中では提示されています。
以前にご紹介した高齢者の足部に関する論文では、加齢に伴う底屈筋力の低下と外反可動域の低下が示されていましたが、疾患や年齢に応じての特徴を把握しながらも、筋力だけではなく筋萎縮や筋量、神経筋機能も視野に入れた総合的で個別的な評価・アプローチの必要性を感じました。
参考文献
Mark A. Feger et al. Diminished Foot and Ankle Muscle Volumes in Young Adults With Chronic Ankle Instability(2016)
NEUROスタジオ東京 山岸梓