研究の背景
臨床的には、小〜中程度の回旋腱板損傷の患者において、棘下筋の萎縮がしばしば観察される。しかし、従来の解剖学的知見ではこの現象を十分に説明できない。
本研究では、棘上筋および棘下筋の上腕骨への付着部(フットプリント)を詳細に再調査した。
方法
研究対象: 113肩(64体の死体)
棘上筋および棘下筋の上腕骨への付着部を97標本で詳細に観察
16標本では、筋肉部分を除去し、腱部分のみを観察
26肩については、付着部の正確な測定を実施
結果
棘上筋
前部には長い腱成分を持ち、常に大結節(greater tuberosity)の最も前方の高い部分に付着
21%の標本では、小結節(lesser tuberosity)の最上部にも付着
フットプリントの形状は三角形
平均的な長さ(内側-外側)は6.9mm、幅(前後方向)は12.6mm
棘下筋
上部には長い腱成分を持ち、前方へカーブしながら大結節の前外側部に付着
フットプリントの形状は台形
平均的な長さ(内側-外側)は10.2mm、幅(前後方向)は32.7mm
棘上筋のフットプリントは従来考えられていたよりも小さい
大結節の広範囲が実際には棘下筋によって占められている
これにより、従来「棘上筋腱損傷」と診断されていた症例の多くに、棘下筋腱の損傷も含まれている可能性が高い


結論
本研究により、従来の認識を覆す新たな解剖学的知見が得られた。特に、棘下筋の関与がこれまで考えられていたよりも大きいことが明らかになった
これに基づき、回旋腱板損傷の診断および治療戦略を見直し、より解剖学的に適した修復術の選択が求められる
臨床的意義
本研究の知見は、肩関節リハビリテーションのアプローチを見直す重要な示唆を与えます。特に、
・棘上筋と棘下筋の付着部の違いを理解し、負荷調整を適切に行うこと
・腱板と肩甲骨の動きを連携させたリハビリを進めること
・術後リハビリでは過度な外旋運動やアウターマッスルの過剰使用を避けること
が、リハビリ従事者にとって特に重要なポイントとなります。
今後のリハビリ指導において、患者の状態に合わせた細やかな対応を心がけることが求められます。
参考文献:
Tomoyuki Mochizuki et al. Humeral Insertion of the Supraspinatus and Infraspinatus. New Anatomical Findings Regarding the Footprint of the Rotator Cuff. 2009
NEUROスタジオ東京