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錐体ニューロン:樹状突起構造とシナプス統合

今回はNelson Spruston(2008)のReviewsをご紹介します

はじめに

錐体ニューロン(pyramidal neurons)は、哺乳類の大脳皮質、海馬、扁桃体などの高次認知機能に関与する領域に広く分布しており、その特徴的な形態と機能によって、神経情報処理の中心的な役割を果たしています

錐体ニューロンの樹状構造の特徴

錐体ニューロンは、基底樹状突起(basal dendrites)頂部樹状突起(apical dendrites)の2つの主要な樹状構造を持ちます

基底樹状突起は細胞体の基部から伸び、頂部樹状突起は細胞体の頂部から伸びて遠位部で樹状分岐(tuft)を形成しています

これらの樹状突起は、ニューロンの階層的な情報処理を可能にします

異なる領域における構造の違い: 例えば、海馬CA1領域の錐体ニューロンは、長い主軸の頂部樹状突起を持ち、CA3領域のニューロンは細胞体近くで分岐する特徴があります

種間差: 霊長類では前頭前野の基底樹状突起が特に発達し、ヒトではさらに複雑で密なスパイン構造を持ちます

シナプス入力の統合と領域依存性

錐体ニューロンは、シナプス入力の受け取り方において、樹状突起の位置ごとに異なる特性を持ちます

近位樹状突起(基底および近位頂部樹状突起): 同じ皮質領域や隣接領域からの興奮性入力を受ける

遠位樹状突起(apical tuft): 皮質外の入力(例:視床)を受け、異なる情報処理機構に関与する

抑制性入力の特異性: かご細胞(basket cell)は細胞体周辺の抑制を、Martinotti細胞は頂部樹状突起の抑制を担う(下図)

左:三層性介在ニューロン 中央:CA1ピラミッド型ニューロン 右:OLM介在ニューロン

図は、異なる抑制性介在ニューロンがCA1ピラミッド型ニューロンの特定の領域をターゲットにしていることを示しています。CA1ピラミッド型ニューロンには双子の尖端樹状突起があります。

 三層性介在ニューロンの軸索は放射状層(stratum radiatum: s.r.)、錐体細胞層(stratum pyramidale: s.p.)、および近位起始層(proximal stratum oriens: s.o.)に限定されています。

OLM介在ニューロンの主要な軸索は分子層境界部(stratum lacunosum-moleculare: s.lm.)に限定されています。

これにより、ニューロンは局所的および遠隔的な入力を選択的に統合し、情報処理を調節する。

樹状スパインの役割と可塑性

錐体ニューロンの興奮性シナプスのほとんどは樹状スパイン上に形成されます(下図)

スパインはシナプスの数を増やすだけでなく、シナプス内の分子を局所的に隔離し、特異的なシナプス伝達を可能にします

スパインの形態と大きさは可塑的であり、学習や経験によって変化します

シナプス強度の異質性: 一部のスパインは単一のシナプスを持つが、大きなスパインは複数のシナプスを形成し、強力な伝達を可能にします

樹状突起における活動依存的な電気特性

距離依存的なシナプス統合: 樹状突起の遠位部の入力は細胞体に到達する前に減衰するが、局所的な電位依存性チャネルの活性化により増強されることがあります

樹状スパイク: 樹状突起の局所的なNa+またはCa2+スパイクは、特定のタイミングでシナプス統合を促進します

相乗効果による発火: 遠位樹状突起の入力が近位樹状突起の入力と組み合わさると、全体のシナプス応答が増幅されます(下図)

神経修飾による調節

ドーパミン、セロトニン、アセチルコリンなどの神経修飾物質は、樹状突起の電気的特性やシナプス統合を調節します

アセチルコリンは、皮質の行動状態に応じてシナプス統合の重み付けを変化させます

Ca2+波動: メタボトロピック受容体の活性化により、特定の樹状領域でCa2+波が発生し、神経可塑性や発火特性に影響を与えます

シナプス可塑性の局所性: 長期増強(LTP)は、局所的な樹状突起のK+チャネルの調節と関連し、特定の枝のみのシナプス入力を増強します

結論

錐体ニューロンは、その独特な樹状構造とシナプス統合のメカニズムを通じて、高度な情報処理を可能にしています

異なる領域での樹状構造の変化、シナプス統合の特異性、神経修飾による調整などが、認知機能の基盤となっています

臨床的意義

錐体ニューロンのシナプス統合や可塑性のメカニズムは、脳卒中や外傷性脳損傷(TBI)、神経変性疾患のリハビリテーションにおいて重要な意味を持ちます

錐体ニューロンの樹状突起の可塑性(新しいシナプスの形成やスパインの変化)は、リハビリテーションによる機能回復の基盤となります。

運動療法や反復練習は、錐体ニューロンのシナプス統合を促進し、失われた運動機能や認知機能の回復を助けます。

参考文献

Nelson Spruston. Pyramidal neurons: dendritic structure and synaptic integration.2008

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