今回はJoanne M Wagnerら(2007)の論文をご紹介します。
1. 研究の背景と目的
脳卒中後の片麻痺患者における上肢(UE)の感覚運動障害と動作(リーチング)のパフォーマンスの関連は、特に発症後数ヶ月間で明確ではありません
目的
- 上肢の感覚運動障害がリーチング動作の速度、正確さ、効率性にどのように関係しているかを検討
- 急性期の感覚運動障害が数ヶ月後のリーチング動作の予測因子となるかを調査
2. 研究方法
被験者
脳卒中患者: 39名(平均年齢63.9歳、男女混合)
対照群: 健康な10名(平均年齢59.1歳)
評価は2回実施:急性期(発症8.7日後)と亜急性期(108.7日後)
評価項目
感覚運動障害:
- 筋力(握力や肩・肘・手首の筋力)
- 関節可動域
- 痙縮(Modified Ashworth Scale)
- 関節位置感覚と触覚
- 肩の痛み(Visual Analog Scale)
リーチングパフォーマンス:
- 速度(手首速度のピーク値)
- 正確さ(動作終了時の目標との距離)
- 効率性(動作軌跡の直線性)
測定手法
モーションキャプチャ装置を用いて、被験者が椅子に座った状態でリーチング動作を記録
各被験者に標準化された訓練を実施後、データを収集
3. 結果
急性期(8.7日後)
- 患者のリーチング動作は全体的に低いパフォーマンス
- 動作時間が長い、速度が遅い、目標からのズレが大きい、効率性が低い
- 感覚運動障害では筋力低下、関節可動域の制限が顕著
- 肩の痛みや軽度の痙縮も報告
亜急性期(108.7日後)
- リーチング動作は急性期に比べ大幅に改善
- 動作時間や正確さ、効率性は対照群に近づく
- ただし、速度は依然として対照群より低い
- 感覚運動障害も改善傾向。ただし、筋力や関節可動域の制限が残存

4. 統計分析結果
- 筋力(特に肩・肘・手首の筋力)がリーチング動作の主要な予測因子
- 感覚運動障害全体でリーチング動作の30%程度の変動を説明可能
- 急性期の感覚運動障害が亜急性期の動作を予測する力は限定的(20~30%程度)
5. 結論
- 感覚運動障害のうち、筋力低下がリーチング動作に最も強く影響
- 動作の改善は観察されるものの、完全な感覚運動機能の回復には至らない
- 今後のリハビリテーションでは、筋力強化が重要であることが示唆される
臨床的意義
・上肢の筋力強化が最も重要な治療ターゲットの一つであることが示唆されました。特に発症後3ヶ月間は、筋力トレーニングを重点的に行うことの重要性が裏付けられました。
・握力測定が上肢機能の簡便な予測因子として使用できる可能性とともに、より実用的な機能評価の必要性が明らかになりました
・急性期の状態から回復期の機能を完全に予測することは難しく、単一の評価指標だけでは、機能回復を十分に予測できないことが明らかになり、より包括的な評価アプローチの必要性が示唆されています。
参考文献
Sensorimotor Impairments and Reaching Performance in Subjects With Post stroke Hemiparesis During the First Few Months of Recovery.
Joanne M Wagner et al. 2007
NEUROスタジオ東京 山岸