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肩の障害におけるリハビリテーションでの肩甲骨の役割

今回はVoightら(2000)の論文「The Role of the Scapula in the Rehabilitation of Shoulder Injuries」を簡単にご紹介します。

肩甲骨の解剖学的特徴

肩甲胸郭関節は体の中で最も適合性の低い関節の1つ。肩甲骨と胸郭の間に実際の骨性の関節はなく(浮遊関節)、この特徴により多方向への大きな可動性を有する。

肩鎖関節による靭帯性の付着・筋肉による吸着メカニズム(前鋸筋・肩甲下筋)

肩甲挙筋・菱形筋・前鋸筋・僧帽筋

ローテーターカフ:棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋

肩甲骨の凹面の前面が胸郭の後外側の凸面上を滑走。上記筋群が協調的に共収縮することで肩甲骨の固定・運動の誘導・肩甲上腕リズムの維持を図る

特に90度以上の屈曲や外転時には肩甲骨安定化筋の十分な強さが必要

肩甲骨の3つの主要な役割

① 肩関節における動的安定性と制御された可動性の維持

(肩関節の安定した土台・上腕に合わせた協調的な動き・関節窩の適切な位置関係の維持)

② 筋肉の付着部位としての役割

(内側縁に安定化筋が付着・筋の協調的な共収縮とフォースカップル)

③ 近位から遠位へのエネルギー伝達におけるリンクとしての機能

(大きな力と高エネルギーの効率的な伝達と調整・安定して制御された土台として機能)

重要な問題点

肩甲骨の筋肉は評価や治療において見過ごされがちである

肩甲骨安定化筋の機能不全や弱化は肩の生体力学的な異常(翼状肩甲やインピンジメント)を引き起こす

これにより前方関節包への異常なストレスやローテーターカフの圧迫リスク増加、パフォーマンスの低下などの問題を引き起こす

評価方法

・静的および動的な肩甲骨の位置の観察

・ 徒手筋力検査

・Lateral Scapular Slide (LSS) テスト(*1)による評価

*1:LSSテスト

3つのテストポジションすべてにおいて、両側の肩甲骨の位置の左右差を測定

測定は、肩甲骨の下角から胸椎の棘突起までを同一水平面上で行う
3つのポジション:腕を冠状面上で0度、45度、90度に外転させた状態

  • ポジション1では、肩をニュートラルポジションにし、腕の力を抜く
  • ポジション2では、患者の両手を腰の周りに置き、上腕骨を内旋させ、45度外転
  • ポジション3では、上腕骨を最大内旋位と90度外転位
    両側で測定値を比較し、1.5cmの差があれば陽性

リハビリテーションの主要な要素

リハビリテーションの基本原則として、症状の正確な診断に基づくこと、運動開始前のストレッチングの重要性(拮抗筋のストレッチなしでは筋力強化は困難)

・段階的な運動プログラムの実施

・適切な肩甲骨のアライメントと制御の強調

以下のような具体的なエクササイズの実施:

スカプラクロック・タオルスライド・ PNFパターン・芝刈り機エクササイズ・ボール安定化運動など

図:スカプラクロック

図:タオルスライド

臨床的には

肩は複数の関節からなる運動連鎖として考える必要があり、肩甲骨とその周囲筋群の正常な機能は肩全体の機能に不可欠なため包括的な治療が必要

リハビリテーションの評価・プログラムには静的・動的な組み合わせの中で、段階的に個別化されたプログラムの立案とアプローチが重要

参考文献

Voight et al. The Role of the Scapula in the Rehabilitation of Shoulder Injuries. 2000

NEUROスタジオ東京 山岸