今回はSusana Carvalhoら(Current Biorogy 第22巻)の論文をご紹介します。
なぜ私たちの初期人類の祖先は、主な陸上移動手段として二足歩行を始めたのか?
化石の不足と、既存の化石の解釈の違いにより、現状では最古の習慣的な二足歩行の証拠が何なのかという議論は未解決のままです。
現在わかっていることは、二足歩行への移行は、森林地域を減少させた気候変動と同時期に起こったことと、この環境変化により、初期人類はより開けた環境で活動することを余儀なくされたことです。
環境の変化が二足歩行のきっかけとなったかもしれないが、どのような選択圧が初期人類の姿勢レパートリーに二足歩行を加えることになったのか、チンパンジーの運搬行動から考察しています。
実験内容
場所:ボッソウ森の野外実験室で
材料:2種類のナッツ(Coula nut:その地域では入手困難な希少な資源、Oil palm nut:自然に入手可能で馴染みのナッツ)
条件:3つの条件で提示(Oil palm nutのみ/Coula nutが少量ある高競争条件/Coula nutが主要な資源として存在する低競争条件)
観察項目:
・チンパンジーが選んだアイテム
・同時に運んだアイテム数
・物の持ち方
・移動方法(四足、三足、二足歩行)
結果
44.5時間の中で記録された運搬回数は742回(観察対象個体数は11個体)
1.運搬頻度
高競争条件では、他の2条件と比べ個体あたりの運搬回数が3倍に増加
Coula nutが多いときは、チンパンジーはOil palm nutの運搬を停止
2.運搬方法の変化
・全体的には四足歩行が主な運搬方法
・高競争条件と低競争条件では、Oil palm nutのみ条件と比べて二足歩行での運搬が4倍に増加
・二足歩行のときは、他の移動方法と比べて2倍以上のアイテムを運搬可能
3.運搬方法の多様化
・Coula nutがある条件では、より多様な運搬方法を使用
・手だけでなく、口や足も使用
・複数の身体部位を同時に使用して運搬量を増加
左図はOil palm nutとCoula nut
右図は大好きなパパイヤを運搬する様子
複数のアイテムを効率的に運ぶために二足歩行を利用している様子
考察
実験では、価値が高く入手機会が予測できない資源の存在が、二足歩行での運搬を推進することを示した。
これは人類の二足歩行の進化における選択圧の1つとなった可能性を示唆している
参考文献
Chimpanzee carrying behaviour and the origins of human bipedality
Susana Carvalho et al. Current Biology Vol 22 No 6
NEUROスタジオ東京 山岸梓