〜無意識的に作用する姿勢の監視役〜
私たちの身体には、常に姿勢や運動を監視し、微調整を行う精巧な感覚システムが備わっています。その中心となるのが固有感覚です。第1回で触れた三つの感覚システムの一つである体性感覚の中核を担うこの感覚システムについて、今回は深く掘り下げていきたいと思います。
固有感覚は、私たちの意識に上ることなく、絶え間なく身体の状態を感知し続けています。筋の長さや張力、関節の位置、運動の速度など、姿勢制御に必要な情報を、常に中枢神経系に送り続けているのです。この情報がなければ、私たちは目を閉じた途端に転倒してしまうかもしれません筋紡錘の役割
この感覚システムの主役となるのが、筋紡錘とゴルジ腱器官です。筋紡錘は筋線維の間に埋め込まれた特殊な感覚器で、筋の長さとその変化速度を検出します。この情報は、Ia線維と呼ばれる太い神経線維を通じて、驚くべき速さで脊髄に伝えられます。これにより、姿勢の微細な変化に即座に対応することが可能となります。
今回はも前回と同様にSensorimotor anatomy of gait, balance, and falls ; Colum D Mac kinnon; Handb Clin Neurol. 2018 ; 159: 3–26.の論文をもとにまとめていきます。
ゴルジ腱器官の機能
一方、ゴルジ腱器官は筋と腱の接合部に存在し、筋の張力を監視しています。過度な収縮を防ぐ保護機能を持つと同時に、姿勢制御における力の微調整にも重要な役割を果たしています。例えば、重い物を持ち上げる際の筋力調整や、階段昇降時の下肢筋力の制御などに不可欠です。
関節受容器の重要性
関節受容器も固有感覚の重要な構成要素です。関節包や靭帯に存在するこれらの受容器は、特に関節の可動域端での位置感覚の提供に優れています。関節の過度な動きを防ぎ、安定性を維持する上で重要な役割を果たしています。
神経系における情報処理
これらの感覚器からの情報は、脊髄レベルでまず統合され、反射的な姿勢制御に利用されます。同時に、上位中枢にも伝えられ、より複雑な運動制御や身体図式の形成に寄与します。特に小脳は、これらの情報を活用して運動の誤差を検出し、修正を行う重要な役割を担っています。
臨床における固有感覚障害
臨床において、固有感覚の障害は様々な形で現れます。関節疾患後のリハビリテーションでは、関節受容器の機能低下による姿勢制御の問題がしばしば観察されます。また、神経疾患では固有感覚の伝導路障害により、重度のバランス障害を呈することがあります。
臨床的には?
治療を考える際には、この感覚システムの特性を十分に理解することが重要です。例えば、関節疾患の急性期には炎症による関節受容器への影響を考慮し、慢性期には機能低下した受容器の賦活を目指した介入が必要となります。また、固有感覚トレーンングを行う際には、単純な反復練習ではなく、様々な環境での課題を通じて、感覚系の適応能力を高めていく必要があります。
近年の研究では、固有感覚の可塑性に注目が集まっています。適切な刺激により、加齢や疾患による機能低下を改善できる可能性が示唆されています。また、スポーツ分野では、パフォーマンス向上のための固有感覚トレーニングの重要性が再認識されています。
次回は、これまで解説してきた感覚システムを統合する中枢神経系の働きに焦点を当て、より実践的な治療戦略について考えていきましょう。
参考文献
NEUROスタジオ 大阪
施設長 大上 祐司